#28 OTOGIKI LAB. 第13話 「茨城県結城市街なか音楽祭の仕掛け人 -後編-」※ポッドキャスト文字起こし


川田:「ABCラジオPodcast OTOGIKI LAB.」音の実験室へようこそ。

川田一輝です。前回、一般社団法人MUSIBITOの野口純一さんにお越しいただいて、茨城県の結城市で行われている音楽フェスのことを聞きました。今週も登場していただきます。

いや、音聞チームでも話してたんですよ。将来住むとこってどこがいいんやろうねって。結城市の話を聞けば聞くほど、めちゃくちゃ住みたくなりましたよね。小京都で古民家があって、お水がおいしいから食べ物とか飲み物とかお酒とか味噌も美味しいし、サウナの水風呂もすごく気持ちいいんだよ、なんて話をこそっと教えてくれたりして。

僕はでも、ここ住みたいなっていうのがあるんです。広島に住みたいんですよ、将来。広島の新幹線の三原駅から、呉ですね、ヤマトミュージアムがあるあそこの呉線っていう電車があるんですけど、そこの車窓がめちゃくちゃ好きなんです。もうほんとに海の音が聞こえてきそうなぐらい海の真横を走る電車で、車窓からの景色なんかイメージは、「千と千尋の神隠し」で海の上走る電車あったじゃないですか、バスか。あんな感じなんですよね。僕はもう毎日釣りして、毎日海見て、起きて、毎日温泉入るっていうのが老後の夢なんで、広島いいよなっていうのも思いました。

今、魚のお兄さんとして、全国いろんなところの海を見てますけど、海って1つ1つ音が違うんでね。瀬戸内海だったら島々が近いから鳥の鳴き声がしたり船の汽笛がしたり、あと太平洋側に行ったら、波が1つ1つ大きいからどんどんと和太鼓みたいな波が砕ける音したり。北の日本海に行くと、風もすごいからフワーホーと。岩にぶつかる波がパシャーンパシャーンって、オーケストラのフィナーレで、シンバルをパシャーンバシャン叩くみたいな。そういった海の表情とか、海の音も違ったりして、将来どんなとこ住むのがいいんやろなっていうことを思ったりもしました。

今日もそんな結城市、野口さんの取り組みについて聞いていきたいと思います。

それでは「OTOGIKI LAB.」音の実験室、今日もスタートです。

さあ、この時間、ゲストをお迎えしています。前回に続きまして、一般社団法人MUSIBITOの野口純一さんです。よろしくお願いします。

それにしても、この結城サブレ、美味しいですね。病み付きの味になって。桑の葉が入ってるんですよね。

野口:葉っぱのパウダーが練り込んであって。

川田:他にも名物ってあるんですか?

野口:結城はご当地菓子のゆで饅頭。

川田:饅頭、茹でてるんですか。白玉みたいな?

野口:そのまんま生地を茹でて、どぼんとお湯の中にくぐらせて食べるっていう感じなんですけど。そもそも結城の殿様が疫病が流行った時には、疫病よけで民衆に振る舞ったっていうのがスタートらしくて。それから結城の人たちは夏祭りの時期になると、お神輿の時期に家庭で茹で饅頭作って。

川田:家庭で作る?

野口:そう、息災祈願して食べる。それを食べると1年

川田:健康でいられるよと?

野口:っていう。そういうお饅頭が結城にある。最近は和菓子屋さんに結構あって、家であんまり作らなくなったんで。多分茹でてるんで、あんまり日持ちがしない。

川田:なるほど。じゃあこれは結城に行って食べるというね。さすが。

前回は、いろんな野口さんの音楽のルーツ、ヒップホップからクラブDJをやってっていうお話と、イベントをされてるのが結城市というお話でした。茨城の一番西の町、結城市でされている街中音楽「結いのおと」。改めてどんなイベントか教えていただいていいですか?

野口:この「結いのおと」の一番の特徴は、結城市の歴史的な資源ですね。歴史と文化が息づく結城の固有の文化資源である神社だったり、お寺さんだったりとか。あとは、酒蔵。結城紬の産地問屋とか。そういった空間をライブステージとして活用するとこでして、より体験価値の高い、ライブサーキットの音楽祭として、回を重ねるごとに話題となってます。

川田:もう10年?

野口:そうですね。

川田:僕の知ってるTENDREが浴衣姿で。

野口:2回ほどもう来てもらって、バンドセットでも。結城紬をすごい好きでいてくれて、2回ともぜひ着させてほしいみたいな。

川田:僕の同級生のtofubeatsも行ったりと、結構いろんなアーティストが、ヒップホップとか、シンガーソングライターの眞名子 新くんとか、いい意味でごちゃ混ぜ。

野口:そうですね。ジャンルはすごく多岐に渡ってて。それがまた多世代の交流っていうことで、すごくいい意味でこの町の人たちの新しい価値観を生むような。その舞台が結城の街中っていうことで、その地域の人々の生活感だったりとか。

川田:実際に住んでらっしゃる方も周りにいて、そこの中で、街中音楽祭。第1回立ち上げ、相当大変だったんじゃないかなって。

野口:でもね、1回目から今のような割とでかくやってたわけじゃなくて。

川田:まずはスモールスタートで?

野口:おっしゃる通りで、アコースティックの弾き語りみたいなところから始まって、ステージを見てもらった人たちにこういう規模感でやりたいっていうところ、ちょっとずつ大きくしてって。今ではお寺でヒップアップできるようになりました。

川田:かっこいいな。この10年続けてきて、すごい嬉しかった瞬間とかありますか?

野口:1回目の放送で言ったと思うんですけど、過去にもクレームの電話をいただいたことがあったんですけど、なんとかしてくれって言われて。その方と何度かお話をして、色々代替案を提案をさせていただいたんですけど、ふと、この人ってまだ「結いのおと」にいらしたことはないんだなってことで。要は近所の方なんで、ぜひ次回はお友達と「結いのおと」に参加してくださいっていうことで、ご招待させていただいたんですよね。そしたら去年、色々うるさいと言ってお叱りを受けた方が、すごく楽しかったって言ってくれて。でね、お礼に花束くれたんすよ。1年前はクレームをくれた方が、やっぱりしっかり向き合ってみることで、感謝していただけるような立場になるっていうのは、とても嬉しかったし、すごく良い経験値にもなったなと。

川田:単純にそのライブが楽しかったからっていうよりかは、どちらかというと、その思いに共感したみたいな?

野口:やっぱり内側だったり、「結いのおと」から実際に体感して感じる空気感、温度感だったりとかっていうのも多分分かってくれました。

演者さんがこのイベントに対してリスペクトしてくれて、結構MCでも「素敵なところでやらせていただけるなんてすごい」とかね。「また来年も呼んでほしいから、綺麗に使ってみんなでぜひ来年もこのイベント続けてもらおう」とか。温度感のあるところは、やっぱり参加すると伝わるとこがあったんじゃないかなっていう風に思ってるんですね。

川田:自分たちの街に若い兄ちゃんたちがやってきて、わあわあ騒いでゴミだらけで帰るんじゃないかみたいなイメージがあったけども、実際はほんとに第一線で活躍してるアーティストの皆さんが、自分たちの街にリスペクト持ってくれて好きだって言ってもらったら、やっぱ嬉しい。

野口:だから結城を離れちゃった若い人たちも、結構友達連れて「俺の街ですげえ最高の音楽フェスやってっから行こうぜ」みたいな感じで来てくれて、案内してくれたりとか。

川田:僕、神戸でラジオやってるんですけど、神戸の塩屋、旧グッゲンハイム邸っていう、そこも1個音楽イベントをやっているんですけど、あそこの上の方の町って急斜面に結構家がたくさん建ってて、そこに引っ越してきた人たちの中に、子供たちが遊ぶ公園がないからっていうので、土地の半分に家建てて半分を公園と図書館にした人がいるんですよ。デザイナーのご夫婦で。で、その人たち、なんで自分たちの土地でそんなことしたんですか、って言ったら、やっぱりこの街が楽しかったって記憶がないと将来戻ってきてくれないから。戻ってこないと、家はどんどんボロボロになって、修繕もしてくれないし、インフラも整わなくなってくるから、自分たちが住んでるこの街を大切にしていきたいって言ってて。今のお話は一緒だなっていう風に思いました。

野口:自分たちで住んでる街を豊かにすることで次に繋がる、バトンになると思うんで、「結いのおと」もぜひそういうきっかけになって、バトンになって、また次の世代が「結いのおと」ではない違う取り組みだったり事業だったり、その町の良さっていうのをしっかり感じて繋いでいける渡し役としてなってほしい。

川田:「OTOGIKI LAB.」っていろんなゲストの方が来られて、その皆さんがお話とともに、すごい温かい言葉のプレゼントもしてくださってるんです。この番組、「音のバリアフリー」だって話をしてくださった方もいて、我々は今までは耳が聞こえる人、聞こえにくい人、そういった人たちでも同じ楽しさで楽しめる環境をと思ってしてきましたけど、もしかしたらそのバリアフリーって、地方と都市とを結ぶバリアフリーっていうのもあるのかもなって思いました。音をきっかけに普段は行かない町に行くとか。

野口:「結いのおと」っていうのがハードルを取っ払うものになって。

川田:確かに茨城って関西人が一番行くモチベーションがわきにくいって言ったら失礼ですが、茨城の方、聞いてたらごめんなさい。大洗水族館にしか行ったことないので。でもすごくいいなっていう、地方創生の一つの可能性も感じました。

色んな会場があると、音作りとかもすごい難しいんじゃないかな。

野口:やっぱそこは音響さんと色々話し合って、蔵の街、蔵造りの建物は結構反響が良かったりするんで、逆に割とやりやすいんすけど、お寺さんの本堂なんかは、結構柱があったり。そういった部分は結構苦労されてるみたいなんで。事前にリハーサルやったりとか色々環境を考えながらやってもらってますね。

川田:自分たちの街に友達呼んでくるってありましたけど、家族連れでも来たりもするんですか?

野口:ファミリー層は結構いらしてくれてるんで。フェス協会のイヤーマフとかももうずっと毎年、ここ最近は。

川田:子供たちが耳にダメージ受けないようにやってるんですね。

他に「結いのおと」ならではのフェスの工夫とかってあったりしますか。

野口:やっぱり結城って街中音楽祭って言って、ライブサーキット型の音楽フェスですけど、街並みがコンパクトなんですね。だから動線だったり、どういう風に結城の良さを体感してもらえるかなっていうことで、回る順番じゃないですけど、こういう風に回ってもらったら、より結城の良さがわかるよっていうところで、動線のマップを作ったりとか。ワークショップをやったりとか。

川田:ワークショップってどんな?

野口:お寺さんがあるんで、座禅体験やったりとか。

川田:そんなのもできるんですか? 面白い。

野口:あとは一文字写経じゃないすけど、般若心経の文字を一文字ずつ皆さんで繋げてってお経をちゃんと作ろうみたいな。その文字一つにちゃんと意味があるんで、自分たちがなんでこの文字を選んだかていうことで。ある女の子は仏っていう字を選んで、戦争がない平和な時代になりますようにっていう風に思いを書いて、その文字を選んだっていうことで、そういうのをみんなで繋げてって。

川田:音だけじゃなく、いろんな出会いとか気づきがありそう。

野口:何かフックになって、結城の深い文化だったり体験だったり、あとは結城の地域資源を使った新しいメニューを開発したりとか。

川田:僕、ちょっと考えたんですよ。桑チューハイ。

野口:いいですね! 緑茶ハイみたいな?

川田:採用ですか(笑) 緑茶ハイみたいな、桑が意外と抹茶みたいな、お茶のいい香りがするんですよね。この葉っぱのいい香りって、甘いのいいわっていうプレーンチューハイとか飲む人にいいんじゃないかなって。

野口:ありですね。いただいていいですか?

川田:どうぞ。確実に結城に行ったとき、僕それご馳走してもらいますけど、飲み放題ということで。

一般社団法人MUSIBITOっていうお名前も、今のお話聞いてすごいしっくりきたのは、音、町、人、いろんなとこを結んでいってらっしゃる方なんだなって思いました。今後なんかこういうことしてみたいとかありますか。

野口:音聞プロジェクトっていうところで関わりを持たせてもらってるんで、多様な聞き方の提示として、サイレントディスコ形式でやってみたりとか。

川田:サイレントディスコっていうのは、ヘッドホン付けて? あれ、いいですよね。

野口:そういうのをやったり、字幕付きの配信だったり手話通訳を組み合わせて多様な聞こえ方のワークショップなんかもやったりとか。あとは、少し離れててもライブを楽しめる空間をあらかじめ設計した「音の安心ゾーン」をエリアの中に設けたり、その聞こえの違いを前提にデザインされたフェスなんかにチャレンジできたら、結構自分に合った音の楽しみ方を選べるっていう、そういう安心感もあるフェスにしていったらいいかな。

川田:なるほど。街中音楽祭だからこそ、いろんな選択肢が多いっていうのはいいですね。

僕、今1歳の息子がいるんですけど。子供が生まれて良かったことがめちゃくちゃある中で、子供がいることで行けなくなった場所もめちゃくちゃあるなって。妻か僕どちらかが確実にカウンターだけの焼肉屋さんとか行けないとかね。それこそライブフェスに一緒に行くにはまだちょっと辛いとかなっても、街中だったら「ちょっと今からチンさん見てくるわ」みたいな。

野口:いい距離感、お互いの距離感を、音の距離感という意味で取れると思うんで、そういう利点をこの「結いのおと」が作っていって、聞こえ方だったり聞き方を提案できたら、すごくいいなという風に思いましたね。

川田:すごい。今日はいろんな可能性を感じました。

野口:ありがとうございます。

川田:個人的には、地方創生って結構キーワードで。僕は魚とか海が大好きなんで、いろんな港町に行くんですよ。例えば、和歌山の那智勝浦とか、学生時代は広島の橋がかかってない、船でしか行けない大崎上島っていう、みかんとかが有名な島があるんですけど、やっぱりすごい素敵な人たちがいる中で、どうしても人口が減っていったり、町の薬局屋さんがなくなったよとか、そういうニュースを聞いてくと、何かできないかなってやっぱ思うんですよね。

で、それをやるためには、やっぱその地に根差すこととか、おっしゃったみたいな、その地域に本当に住まわれてる方たちとの対話っていうこともありながら、音楽っていうキーワードで、そういったバリアフリーを作れるんだなっていうのを知れたのが、今日よかったです。

野口:よかったです。ありがとうございます。

川田:ぜひ、またイベント遊びに行かしてください。「OTOGIKI LAB.」で行って、いろんなアーティストにインタビューするみたいなのもいいいですね。

野口:「結いのおと」の良さって、アーティストさんの滞在時間、長いんすよ。

川田:行ってすぐ帰るじゃない?

野口:じゃないです。もう割と終わった後、一泊される方もいるんですよ。

2日間やってるイベントにあえて1泊されて、次の日はもうお客さんとして普通に楽しんでもらって、みたいな。あとは呼んでないのに来てくれる(笑) 去年出た人が今年はお客さんとして来てくれて、じゃあぜひ一緒に飲みに行こうよとか(笑)

「結いのおと」の緩やかな独特の空気感をすごく楽しんでいただけるってのもありがたいなと思って。

川田:僕もそうですし、これ聞いてる人もみんな結城市ちょっと好きになってますね。

野口:嬉しいっすね。出てよかったです。

川田:行きたいなと思いました。

いろんなフェスがたくさんある中で、その血の通い方みたいなのがほんとにオンリーワンなんだなっていうのを感じました。ぜひとも「OTOGIKI LAB.」とも、これからどうぞよろしくお願いいたします。

2週にわたってお話伺わせていただきました。この時間のゲストは一般社団法人MUSIBITOの野口純一さんでした。

ありがとうございました。

さあ、川田一輝がお送りしてきた「OTOGIKI LAB.」第13回、いかがだったでしょうか。

もうシンプルに言ったら「結いのおと」行きたくなりましたね。

そこでしか見られないもの、食べられないもの、そしてそこに流れてる町の空気っていうのを感じたいなっていうのを思いました。何より桑の葉が美味しかったのも印象的でした。

皆さんもぜひ足を運んでみてください。

それでは、第13回「OTOGIKI LAB.」研究は終了といたします。

「ABCラジオPodcast OTOGIKI LAB.」また次回お会いいたしましょう。

お相手は川田一輝でした。



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